FilmFocus

フィルム写真に関する情報を発信するメディアです

コラム

フィルム需要はピークの何分の 1 なのか? 決算資料・業界統計から見るフィルム写真の現在地

「現在の写真用 35mm フィルムの需要 (売上ベース) はピークと比べどの程度なのか?」という問いに答えるべく 1990 年代の Kodak の決算資料を読み進めています。結果はコラムとしてご紹介予定。皆さんの予想を教えてください

— FilmFocus (@FilmFocusJp) August 21, 2026

「現在の写真用 35mm フィルムの需要は、ピーク と比べどの程度なのか?」 先日 X でこんなアンケートを取ったところ、回答は「1/1000」が 46.9% で最多、「1/100」が 40.6%、「1/10」が 12.5% でした。今回はこの問いに、Kodak の決算資料や各国の業界統計を突き合わせて答えを探りました。

結論としては、売上ベース (Kodak の売上を代理指標にした場合) では名目でピークの約 1/35、インフレ調整後で約 1/60。本数ベースでは現在の公式統計が存在しないため幅を持った概算になりますが、おおむね 1/50〜1/100 のあたり とみられます。上記のアンケートの選択肢で最も実態に近いのは 2 位の「1/100」のようです。

ピーク期の Kodak の業績をさぐる

ピーク期の Kodak の業績は、当時の 10-K (米国の有価証券報告書) にはっきり記録されています。

  • 全社売上はピークの 1996 年で 160 億ドル、1999〜2000 年でも 140 億ドル前後
  • うち写真事業 (Photography セグメント) は 2000 年で 約 102 億ドルと全社の 7 割強 (Kodak 2000 年 10-K)。ただしこの区分はフィルムだけでなく、印画紙・現像サービス・カメラ (銀塩/デジタル)・映画用フィルムまで含みます
  • 消費者向けフィルム単体では、 Forbes (2002 年) の分析で全社売上の約 25%、約 35 億ドル規模

1990年代のKodakの有価証券報告書(10-K)。このような資料は米国証券取引委員会の Web サイト sec.gov で確認することができる1990年代のKodakの有価証券報告書(10-K)。このような資料は米国証券取引委員会の Web サイト sec.gov で確認することができる

対する現在の Eastman Kodak は、2025 年の全社売上が 10.7 億ドル (Kodak 2025 年 10-K)。フィルムを含む「Film and chemicals」セグメントは 2023 年の 2.15 億ドルから 2025 年には 2.87 億ドルまで回復しており、2026 年第 2 四半期は前年同期比 +43% と急成長中です。ただしこのセグメントには産業用・映画用フィルムや写真薬品も含まれ、値上げの寄与もあるため、この +43% を「35mm フィルムの需要が 43% 増えた」とまで読むことはできません。

静止画フィルム (プロ・消費者向け) は主に Kodak Alaris への卸売として計上されており、2025 年第 3 四半期の発表にある「Advanced Materials & Chemicals セグメント売上 3.16 億ドルの約 33% が Alaris 向け (静止画フィルムと関連薬品)」という開示から、約 1.04 億ドルと推算できます。Kodak がこの金額を直接開示しているわけではなく、また Kodak は 2025 年後半から一部の静止画フィルムを直販し始めているため、Alaris 向け売上だけでは静止画フィルム売上の全体にはならない点には注意が必要です。

比較軸ピーク期現在比率
写真事業全体 → Film and chemicals (名目)約 102 億ドル (2000)2.87 億ドル (2025)約 1/36
消費者フィルム → Alaris 向け静止画フィルム関連 (名目、いずれも推算)約 35 億ドル (2001)約 1.04 億ドル (2025)約 1/34
同・インフレ調整 (2025 年ドル換算)約 63 億ドル約 1.04 億ドル (2025)約 1/60

以上を整理すると上表のようになります。金額の代理指標で見る限り、名目で約 1/34〜36、インフレ調整後で約 1/60。アンケートの選択肢でいえば 1/10 と 1/100 の間、対数でとれば 1/100 寄りです。

本数で数える: 3 つの統計を重ねる

とはいえ金額は単価の変化に引きずられるので、「何本使われたか」も調べてみましょう。過去の資料を漁っていくと、興味深い統計が地域ごとに 1 本ずつ残っていました。

図1: 写真向けフィルムの年間消費本数の推計 (1993–2012)。世界は実測値ではなく、富士フイルム公表の需要指数 (2000 年 = 100、グラフからの読み取り概数) を Kodak 1998 年アニュアルレポート由来とされる主要 16 か国合計 22.2 億本で換算した推定値。米国は PMA (Photo Marketing Association) の単体フィルム販売本数 (レンズ付きフィルムは含まず、2011–12 年は予測値)。日本は日本カラーラボ協会まとめの国内出荷本数 (レンズ付きフィルムを含む)。図1: 写真向けフィルムの年間消費本数の推計 (1993–2012)。世界は実測値ではなく、富士フイルム公表の需要指数 (2000 年 = 100、グラフからの読み取り概数) を Kodak 1998 年アニュアルレポート由来とされる主要 16 か国合計 22.2 億本で換算した推定値。米国は PMA (Photo Marketing Association) の単体フィルム販売本数 (レンズ付きフィルムは含まず、2011–12 年は予測値)。日本は日本カラーラボ協会まとめの国内出荷本数 (レンズ付きフィルムを含む)。

まず 世界全体 では、Kodak の 1998 年アニュアルレポートに由来するとされる国別消費量の表が残っています (Finnerty 論文の表 7)。主要 16 か国の合計で 22 億 1,930 万本。「世界全体の公式な市場総数」と明記された数字ではありませんが、主要国をほぼ網羅した合計なので、世界の規模感を示す基準値としては十分参考になるはずです。これを富士フイルムが公表している「カラーフィルム世界総需要」の指数グラフ (2000 年 = 100) と組み合わせると、ピークの 2000 年前後で約 22〜23 億本、そこから 2006 年に半減、2010 年には 1/10 以下、2012 年には約 1.5 億本前後まで縮んだと推定できます。なお指数の対象は「カラーフィルム」で、基準値の 22 億本には白黒等も含まれるとみられるため、この掛け算はあくまで概算です。

米国 では PMA (Photo Marketing Association) の統計が 1995〜2012 年をカバーしています。ピークは 1999 年の 8 億本。これが 2005 年に 3 億本、2008 年に 8,000 万本、2012 年には 1,500 万本 (予測値) まで落ちました。13 年で 1/53 です。なお別掲のレンズ付きフィルム (使い捨てカメラ) は本数ではなく台数で集計されており、こちらのピークは 2004 年の 2.18 億台でした。

最後に 日本 では日本カラーラボ協会がまとめた国内出荷統計が 1997〜2010 年分残っています。ピークは 1997 年の 4 億 8,283 万本。これが 2010 年には 3,434 万本と、13 年で 1/14 になりました (最終年の 2010 年は元表の合計値と内訳の合計 2,651 万本が一致しません。本文は公式の合計値を採用しており、内訳の合計を使うと約 1/18 になります)。日本では米国と比べて、フィルム消費の落ち込みの幅が小さかった可能性が浮かび上がります。

日本市場の内訳を見る

日本の統計はフォーマット別の内訳まで残っているのが貴重です。

図2: 日本国内のロールフィルム出荷本数・フォーマット別 (1997–2010)。出典: 日本カラーラボ協会「国内フィルム市場の動向」。カラーネガ 135 にはレンズ付きフィルム (写ルンです等) を内数として含む。調査最終年となった 2010 年は掲載されている合計値 (3,434 万本) と内訳の合計 (2,651 万本) が一致しないため、グラフは内訳を採用図2: 日本国内のロールフィルム出荷本数・フォーマット別 (1997–2010)。出典: 日本カラーラボ協会「国内フィルム市場の動向」。カラーネガ 135 にはレンズ付きフィルム (写ルンです等) を内数として含む。調査最終年となった 2010 年は掲載されている合計値 (3,434 万本) と内訳の合計 (2,651 万本) が一致しないため、グラフは内訳を採用

いくつか目を引くポイントがあります。

  • カラーネガ 135 が一貫して 8 割前後を占めます。うちレンズ付きフィルムは 1997 年で 6,865 万本。単体のカラーネガ 135 (約 3.3 億本) の 5 分の 1 ほどですが、これ単独で当時のリバーサル市場 (2,756 万本) の倍以上という規模でした
  • APS (IX240) は 1999〜2001 年に 6,000 万本台まで伸びてから急落。規格の寿命はわずか 10 年ほどでした
  • リバーサルと白黒は根強い人気があります。市場全体が 1/14 になる間も、リバーサルは 2,756 万本 → 269 万本 (1/10)、白黒は 915 万本 → 76 万本 (1/12) と、平均よりわずかに緩やかな減少です。プロ・愛好家需要の粘りが数字に表れた結果でしょうか。

そして統計は消えた

「現在は何本なのか」に正面から答える公式な答えはありません。フィルムの売上や本数を数える統計そのものが 2010 年前後に相次いで終了しているからです。

産業統計は「測るまでもなく小さくなった」市場から順に手を引きます。フィルムはその後リバイバルを迎えましたが、それを測る物差しが先に消えてしまったという形です。

その後の回復を伝えるのは、統計ではなくメーカーの発言です。

売上金額の比率 (名目で約 1/35、インフレ調整後で約 1/60) と現在の単価水準から逆算すると、現在の世界の本数はピークの 1/50〜1/100 のオーダー、つまり年間数千万本規模とみるのが妥当そうです。

アンケートの答え合わせ

改めて答え合わせをすると、 最多得票だった「1/1000」はおそらく過小な見積もり です。確定値が存在しない以上「正解」を断定することはできませんが、ここまでの分析と最もよく整合するのは 2 位の「1/100」です。

とはいえ「1/1000」と答えたくなる感覚も分かります。街ではミニラボの閉店が相次ぎ、量販店のフィルム売り場が縮小されていった体感は、確かに 1/100 どころではないからです。それでも数字の上では、フィルムは「絶滅寸前からの回復途上」ではなく「1/50〜1/100 程度まで縮んで、そこから年 4〜5% で成長している市場」とみられます。本数が 1/100 のオーダーまで落ちても売上の代理指標が 1/35 前後で済んでいるのは、1 本あたりの単価が当時の数倍になったためで、量産品から単価の高い嗜好品への転換が 2 つの比率の差にそのまま表れています。

データの出所

本文と図版で使った本数データの出所をまとめます。

系列期間内容出所
世界199822 億 1,930 万本 (主要 16 か国の消費量合計)Finnerty 論文の表 7 (Kodak 1998 年アニュアルレポート由来とされる 16 か国の消費量表。SEC 提出の 10-K ではなく株主向け年次報告書側の記載。引用経路をたどった解説記事)
世界1993–2012需要指数 (2000 年 = 100)富士フイルム提出資料 (経産省 価値創造経営小委員会, 2025 年) ほか
世界2015–2026成長率・倍率 (メーカー発言)Kosmo FotoTIMEBusiness Focus MagazineMarketplaceITmedia
米国1995–2012単体フィルム販売本数PMA Marketing Research 集計表
米国1983–2000フィルム販売本数 (インスタント含む)ハーバード・ビジネス・スクール教材 "Kodak (A)" (2003 年、原出所 PMA)
日本1997–2010国内出荷本数 (フォーマット別)日本カラーラボ協会「国内フィルム市場の動向」 (旧サイト掲載分は Internet Archive で補完)
金額1996–2007Kodak セグメント売上Kodak 各年 10-K (SEC EDGAR)
金額2023–2026Kodak 製品ライン売上Kodak 10-K / 10-Q (SEC EDGAR)

1990 年代の決算資料を読み進めるところから始まった調査でしたが、着地は「フィルムの縮小はおそらく 1/1000 ではなく 1/100 のオーダーで底を打ち、いまは成長に転じている」という、思ったより明るい推定でした。今後も FilmFocus では実際のデータを交えながらフィルム写真の動向を調査していきます。

この記事をシェア

XLINEB!はてブ

関連記事

PR

フィルム撮影に使うもの